「おい、少しは黙っていられないのか」
 呆れ返った様子で小言を呈す彼に対して、ブルーノはと言えばさも楽しげだった。これはいまに始まったことではないが、日常生活におけるほんの些細な出来事や変化、周囲を取り巻く大自然に関する新たな発見なども含め、この青年は驚くほどの悪意なき純粋さで物事を捉え、前述の通り瞳を輝かせたかと思えば、己の感情を微塵も隠すことなく声を上げて笑い、時に心の底から感動し、またある時は悲しみに暮れ、つい一ヶ月前までは心を固く閉ざしていたはずのヴェルヌイユを至って真っ当かつ愛情深い、なんだかんだで世話好きな男に立ち返らせ始めていた。とうに失ったものと思い込んでいた感情が次々と蘇りつつあることに気が付いたヴェルヌイユだったが、不思議と以前ほどの抵抗は覚えず、いまの彼はむしろ自ら進んでそれらを受け入れんとする姿勢を見せていた。もっともらしい言い訳をいくら考えようとも、いったん前向きさを取り戻してしまった彼の意識はいまさら後退できかねたし、加えてこの機会を逃そうものなら、自分が立ち直るきっかけは二度と訪れないのではなかろうかと思われたのだった。
 この運命的とも思えるようなブルーノとの出会いを見逃すことなく掴んだ彼は、一つの大きなきっかけを得た。六月下旬のあの日、たまたま通りすがった近所の浅瀬で手負いのドイツ人兵士を発見し、ふとした善意に駆られて彼を自宅へおぶって帰ってこなかったなら、ヴェルヌイユはいまなお失意の淵に呑み込まれたまま、生気を奪われた亡霊のような生活を続けていたことだろう。考えるだけでぞっとした。あんな日々はもうまっぴらだった。
「それに、おれの写真を撮る必要はない。古いやつが手元にあるから、それを使うつもりだし……」
「“おいおい、一枚くらい撮らせてくれたっていいだろ。仲間とパーティーをするときはたいてい写真係を任されていたし、腕には自信があるんだ”」
「あいにく撮られるのは嫌いでね」
「“お前は最低なやつだな! 不公平にもほどがある”」



            
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