青年の瞳はまばゆいまでの美しさを放ちながらも時に人を恐怖へ突き落とす、あのランボーが詩に表現せんと試みた永遠、すなわち海にも似通った寂寞の青をたたえていた。ヴェルヌイユは彼の双眸の奥に人間の底知れぬ深淵を垣間見たような気がして、思わず身震いしそうになった。言いようのない不安に襲われながらも、しかしヴェルヌイユは青年を食卓に座らせ、あり合わせの食材を使用した質素な手料理を振る舞ってやった。昨日まではどんな食べ物も口にしようとしなかった青年だったが、さすがに空腹の限界に達していたのだろう、食卓に出された品々を尋常ではない速さでもって平らげてしまった。無我夢中で野菜を頬張る青年は口の周りを子供のように汚し、それをヴェルヌイユに指摘されるといった微笑ましい一場面も見られた。家主は当初あっ気に取られた様子で青年の一挙一動を目で追いかけていたが、最終的にはその豪快な食べっぷりに感心したようだった。数日、あるいは数週間ぶりかもしれない腹ごしらえを済ませた青年は満足げな溜息とともに顔を上げ、ありがとう、とフランス語で礼を述べた。
「どういたしまして。ワインのおかわりは?」
 青年は首を横に振った。
「だと思ったよ、このワインは美味しくないからな。安物なんだ」ヴェルヌイユはワインを指でつつきながら言った。「ところでお前、名前は? なんて言うんだ?」
 ヴェルヌイユが思い出したように問えば、青年は些か戸惑ったような表情を見せながらも、しっかりとした口調で答えた。「ブルーノ」
「ブルーノ……そういえば子供の頃に学校で飼育していたにわとりもそんな名前だった。ブルーノってのは下の名前なのか? それとも苗字?」
 名無しの外国人から“ブルーノ”となった青年は馴染みのない言語を前にして、いかにも意味がわからないといった風に肩をすくめて見せた。
 と、ふいに屋外から不審な物音が耳に入ってきた。小石を力いっぱい壁にぶつけたような音だった。