六月中旬。沖縄あたりではすでに例年よりも数週間早い梅雨明けを迎えたそうだが、関東はまだまだこのうんざりするような天気が続くとのことだった。折りたたみ傘を常時バッグに忍ばせておかなければならない日々から解放されるまでにはあと二週間は要する見込み……そんな夕方のラジオにも飽きてきたので、車がちょうど信号にさしかかったところでラジオからテレビに切り替えることにした。目的地まではあと十五分ほどだ。それまではテレビの音だけ聞いて、適当に運転を……と、チャンネルをあれこれいじっていたら、よく聞き慣れたあの人の声が突然耳に入ってきた。
「……へっ?」
 思わずそんな、実に間抜けな声を上げてしまった。浴衣姿で日本家屋の狭い階段を駆け上がり、窓辺へ。片手に持ったうちわを不器用そうにパタパタと扇ぎ、窓辺に腰掛けたまま打ち上げ花火を眺めて――ああ、なんだ、蚊取り線香のCMだったのか……
これぞ日本の夏、と言わんばかりの風情あるCMに仕上がっていた。一体いつから放送が始まっていたのだろうか?
「ちょっと祐さん、あれ、いつから放送してたんです?」
「えっ、なに?」
「さっき車でテレビのチャンネルをいじってたら、祐さんがいきなり出てきて」
「ああ、あれかぁ、もう放送してたんだっけ」
 彼は目を細めて笑いながら、おれが差し出したハーフサイズのスイカを受け取った。あんな風流なCMを見せられたものだからついつい目についたスーパーに立ち寄って、自分で購入することなんてめったにないスイカを購入してしまった。
「目玉が飛び出そうになりましたよ」
「あれ、二種類あるんだけど、ベッシーはスイカのほうを見たんだね」祐さんはこの手土産を気に入ってくれたのか、いやに上機嫌だった。「本物を買ってきてくれるなんて嬉しいなぁ」
「えっ、スイカなんて食べてました? おれが見たのは祐さんが浴衣姿のやつですけど」
「浴衣とは別にもう一つあってね、おれがスイカ食べてるバージョンもあるよ」
 彼は冷凍庫に入っていたすべての氷をステンレスのボウルにぶちまけると、そこにスイカを浸した。そして「三十分くらいしたら食べよう」と言った。こだわりがあるらしい。
「今度、流しそうめんでもしたいね」
「どうしたんですか、突然」
「いやぁ、日本の夏っていいなぁと思って」


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