いつもの仕事の帰り道。昼公演のみだったから、少し遠くのスーパーマーケットまで足を延ばしてみることにした。
 ティッシュペーパーがそろそろ無くなりそうだったので、洗面所で使用する石鹸やシャンプー、リンスなどの日用品をスーパーに隣接する薬局でまとめて買ってしまいたかった。今日は日曜日だから店内は相当混んでいるだろうが、これも明日の休演日を気持ちよく過ごすためだ。我慢しなければ。

 出入り口付近はギュウギュウに混み合っていたので、広く空いている隅っこに駐車場することにした。

 ――スルリ。

 最初の一発できれいに駐車できると、これからなにか良いことが起こるんじゃないかという気分になる。これは幾つになっても思う。
 僕は助手席に置いていた財布を手にし、車を下りた。

「……アッ」

 足元にイチョウの葉が落ちていた。
 寒くなるにつれて外出する回数は自然と少なくなる。だから、ああもうそんな季節なんだな、と僕はしみじみ落ち葉を拾い上げた。

 ヒラリ、ヒラリ……

 誘われるようにして上を見上げた。
 黄色に変色した鮮やかな葉をワッサワッサと誇らしげに揺らすイチョウの木があった。



 この日の晩、僕は茶碗蒸しを作った。
 入っている具は銀杏、エビ、松茸、かまぼこ……

「すっごーい! これ、全部一人で作ったんですか?」

 急な呼出しに快く応じてくれた彼は、小さな銀杏をスプーンですくいながら声を上げた。

「味は……うん! 味も、とっても美味しい!」

 僕は自分が作った茶碗蒸しを、それはもう美味しそうに口へと運ぶ友人の姿をジイッと見つめていた。おかげさまで、自分が一流シェフにでもなったような錯覚を受けて、ちょっといい気分になった。


home