それからヴェルヌイユは物置から引っ張り出してきたレコードを流しながら、いやに落ち着き払った顔つきでソファに寝転んだ。小説の登場人物のように、直感的な胸騒ぎだとか嫌な予感こそ覚えはしなかったものの、彼の心中はおよそ穏やかとは遠いものだった。ブルーノはどこへ行ってしまったのだろうか。探しに行くべきだろうか? いいや、彼もいい年をした大人なのだから、そのうちひょっこりと帰ってくるだろう。そもそも礼儀正しい彼のことだ、一言の挨拶もなしにこの家を出ていくなど考えられない。
 彼は荒くなった呼吸を落ち着かせるためにも、煙草を一本取り出した。彼は物心つく前から喘息を患っており、それを少しでも楽にするために乾燥させた麻の花や葉を吸引する習慣があった。麻はすぐに育つので、個人で使用するに足るほどの少ない量であれば自宅で簡単に栽培することができた。ヴェルヌイユは煙草の先端から適当に葉を掻き出し、小さな瓶に入れて保管してあった麻を煙草の代わりに詰め込んだ。そして煙草を吸うのと同じ感覚で巻紙に点火し、思い切り息を吸い込むのである。
 ふう、と彼は気持ち良さそうに煙を吐き出した。煙草も麻も、ヴェルヌイユにとっては欠かすことのできない生活必需品のようなものだった。手足が痺れ、にわかに熱を持ち始めた。のどが渇いてきたので、彼は卓上に置かれたままになっていた白ワインの注がれたグラスの中身を飲み干した。ヴェルヌイユは急激な眠気に襲われた。意識こそ鮮明だったが、肉体は彼に瞼を閉じるよう促すのだった。穏やかな心地だった。彼は母なる大地に優しく包み込まれているかのような安堵感を覚えた。



            
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