深呼吸を繰り返してみたが、この寝苦しさは一向に改善されそうになかった。こんな熱帯夜にまともに寝つける奴がいるのなら見てみたいものだ、とヴェルヌイユは何度目かの眠りから覚めたのち、額や首筋から汗が流れ落ちるのを感じ取りながら思うのだった。そうだ、明日あたり扇風機を買ってきた方が良いかもしれない。ブルーノは一人で家に取り残されることを極端に恐がるが、安眠を脅かす危険を考えれば致し方あるまい、そういえばさっきまで使っていた扇子はどこにやっただろうか……などと取り留めのない事柄を脳裏で考えていた彼は、ふと誰かに視線を向けられているような違和感を覚えた。いまこの部屋にいる人間は、自分とブルーノ以外にいないはずであるが……瞼を閉じたまま、ヴェルヌイユは相手の様子を探った。その視線はじっと自分へと向けられており、一瞬たりとも反らされることがないように思われた。単純に暑さから生じた汗か、はたまた緊張による冷や汗だろうか。じっとりとした汗が額から滲み出てきた。
あまりの息苦しさに呼吸を乱していたヴェルヌイユの額と首筋に、布のようなものが優しく押し付けられた。ヴェルヌイユは体を強張らせた。ブルーノは高熱にうなされていた際にヴェルヌイユがそうしたのと同じように、隣で狸寝入りを決め込む友人の額の汗をタオルで丁寧に拭った。
青年の視線はそれからすぐに離れてしまった。安心すると同時にいくらかの名残惜しさを覚え、ヴェルヌイユは自分自身を恥じた。年甲斐もなく人肌を恋しく思い、イザベルとのあいだに築いた純粋な関係を汚すなど、過去の自分に対する許されがたき裏切りだった。にも関わらず、固く閉ざしてきた彼の本能は次の一瞬の行為によって、脆くも打ち崩された。
目の前の男が深い眠りについていると思い込んでいたブルーノは男の汗ばんだ寝顔を覗き込み、恐る恐るといった調子で彼の頬に唇を寄せた。ヴェルヌイユは彼の柔らかな金髪が肌に触れるのを感じた。居ても立ってもいられなくなったヴェルヌイユは荒っぽい手つきでブルーノの体を抱き寄せた。
「フランソワ?」
ブルーノは小さな悲鳴を上げたが、それも数分後には跡形もなく夜の闇に呑まれてしまった。