ブルーノは簡素で辛気臭い小部屋の隅に位置する寝台で、閉じかけの傷口から生じる激痛に耐えているのか、さもなくば自分の周囲を取り巻く現実に黯然たる畏れを感じているのであろうか、彼は哀れかつ惨めそのものといった姿で枕に頭を押し付け、そして呪いの言葉にも近い、痛歎とも憎悪とも取れる唸り声をただひたすら発し続けていた。
「ブルーノ、大丈夫か?」
 壊れかけた寝室の扉が鈍い音を立てると錯乱状態にあったブルーノは寝台から飛び下り、怯えきった瞳を年上の男に向けた。
 ヴェルヌイユは静かに踵を返し、居間へと戻った。出会って間もない青年と面倒ないさかいを起こす気は毛頭ない。それとも、ブルーノを落ち着かせるべく抱擁してやればよかったのか? いいや、子供じゃあるまいし、抱擁なんて。彼はソファに身を深く沈め、思考を巡らせた。ブルーノに帰るべき場所があるのだとしたら傷ついた体にどれほどの負担を掛けようとも、それこそ多少の無理をしてでも故郷へ帰らんと試みることだろう。銃弾を撃ち込まれた無残な右足も幸い内部までの貫通は免れていたし、おそらくあと三週間もすれば他の部分の傷も含め、大方落ち着いてくるに違いない。怪我さえ完治したなら、彼はすぐにもここを去って行くだろうか? と、同時にヴェルヌイユの脳裏にはまた別の種類の疑問が浮かんでくる。いくらドイツの占領下であり国境に近いと言えども、ここはあくまでもフランスである。いかなる経緯があったにせよ、長閑な田舎の川辺に兵士が瀕死の状態で倒れているとは尋常ではない。血の気の多いレジスタンスの活動家にやられたのか? いいや、どうだろう、この青年は自らの命を絶たんと河に身を投げたのかもしれない。ヴェルヌイユは生気を失ったブルーノの瞳にちらつく死臭を感じ取っていた。なんせあれほどの傷を負っていたのだから、可能性の一つとしては大いにありえる。だがどれほど考えてみたところで、ヴェルヌイユが確かな回答を得ることは不可能だった。
 無理に体を動かしてしまったせいだろうか、ブルーノはそれから一週間ほどを寝台の上で過ごした。同じ屋根の下で寝起きを共にしながらも、二人の男が会話らしい会話を交わす機会はほとんどなかった。ヴェルヌイユは日に三度、なかなか布団から顔を出そうとしないブルーノの枕元に食事を置きに行っては前回の皿を回収するという奇妙な慈善活動を日課として行うようになった。元々世捨て人のような暮らしを送っていたヴェルヌイユだったので、かような手間が一つ増えたところでさしたる不都合や負担が生じることはなかった。