彼は開業医をしていた父にかつて教えられた通り、まずは清潔なタオルで傷口を丁寧に拭ったのち、その全身を洗い立ての柔らかい毛布で包んでやった。数年前に死んだ父親の跡を継ぎ、現在は兄のエドガーがパリ市内のアパルトマンで小さな診療所を開いている。つまり彼が負傷者を前にしても一切怖気づかず、それどころか簡単な手当や応急処置を手際よく施すことのできた理由はこの馬鹿げた戦争によるものだけでなく、育った家庭環境も大いに影響していた。診療所にしょっちゅう出入りしていた彼はこだわり抜かれた家具の並んだ品の良い待合室でよく患者の話し相手を努めていたこともあり、父に連れられて患者の葬式へ参列させられる機会がほかの兄弟たちと比べて多くあった。ヴェルヌイユは棺に横たわった物言わぬ老人たちの青白い顔を見下ろしては、生命というものの在り様について深く考えをめぐらせたものだ。
 ヴェルヌイユは青年の意識が戻らぬうちに苦痛を伴う処置のいくつかを片付けておくべく、まずは肩と右腿に埋まっていた銃弾を二つ、火で熱したピンセットを使い注意深く取り出した。傷口から溢れ出てくる血液や赤く染まった銃弾を目の前にしても、彼は驚くほど冷静だった。ヴェルヌイユは黙々と手を動かし続けた。取り乱すこともなければ、迷いもなかった。
 ここ一年間ほど、まともに人と接する機会など数えるほどしかなかった彼にとって、他者の顔を間近で見るのは久し振りのことだった。ヴェルヌイユは青年の外貌と、その周囲を包み込む雰囲気にどこか懐かしさを覚えた。青年は僅かながら、かつての最愛の恋人を彷彿とさせる顔立ちをしているように思われたのだった。胸が締め付けられると同時に、ヴェルヌイユはかような感情が自然と込み上げてきた自分自身を恥じ、そしてひどく狼狽した。だが彼は恐らく、あの川辺に浮かんでいたのが禿げた中年男であったとしても迷うことなく岸へ引き上げ、出来うる限りの手当てを施してやったことだろう。ヴェルヌイユは誰に対しても、そもそも常に公平な男だった。